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薬物治療の標的分子を解明し、病気の治癒やQOLの改善を目指します。

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〒920-1192 金沢市角間町 金沢大学薬学系 

研究概要Research

A 食品由来機能性分子による神経新生作用と記憶学習の向上



 病気の治療だけでなく、病気の予防は高齢社会の現在、きわめて重要です。人生100年時代を迎えている今、脳の健康を維持し、高めていくことは、豊かな人生を送る上でも特に大切なことです。私たちは、食品材料を扱う企業と共同で、脳機能改善に働く物質を解明し、そのメカニズムを探るとともに、ヒトへの応用を目指す研究を進めています。現在、特に着目しているのは、タモギタケに大量に含まれるエルゴチオネインと、サケの白子に大量に含まれるDNA核酸です。
 エルゴチオネインの研究については、@ 薬物治療を評価するバイオマーカーの探索研究にも詳細が書かれています。エルゴチオネインを経口摂取することで、脳の記憶学習能力が改善することがマウスとヒトで示されました。一方で、エルゴチオネインを体内に取り込むトランスポーターOCTN1を欠損させたマウスでは、エルゴチオネインがほとんど体内には存在しません。このOCTN1遺伝子欠損マウスを使ってさまざまな病態モデルを作製すると、いずれも正常なマウスに比べて脆弱であること、つまり、病気がひどくなりやすいことが分かってきました。具体的には、

・肝臓に線維化を起こした時
・腎臓に慢性的な障害を起こした時
・肺にタバコの煙を摂取させた時
・小腸を虚血状態にしその後再灌流した時

など、いずれも正常なマウスに比べOCTN1遺伝子欠損マウスでは、病態がひどくなります。欠損マウス体内にエルゴチオネインがないことも考えると、エルゴチオネインが病気に対して防御に働き、生体の健康を維持するよう働いていると考えられます。実際、エルゴチオネインは体内でさまざまな働き(機能性)を示すことが知られています。このようなことから、私たちの仮説は、エルゴチオネインが「健康ビタミン」ではないかというものです(図7)。ビタミンとは人間が生きていく上で必須の化合物です。一方で、エルゴチオネインを持たないOCTN1遺伝子欠損マウスは、普通のマウスと同様に飼育・繁殖できますし、同様に成長します。よって、普通の状態ではビタミンではないと思われます。しかし、上記のような病態モデルを作ったとき、つまり病気になったときには、エルゴチオネインのないことが利いてきて、病態がひどくなるのではないかと考えています。このように病態時にはじめてビタミンのような作用を示す(少なくともそのような働きがある)化合物を、ここでは「健康ビタミン」と呼んでいます。この、エルゴチオネインが健康ビタミンであるという仮説は、まだ仮説の段階です。エルゴチオネインがない時にいったいどんなことが起こるのか、より広く、より深く解明する必要があると考えています。


               




 一方、DNA核酸については、最近の我々の研究から、正常マウスにおいて経口摂取すると記憶学習能力が高まることが示されました。そのメカニズムとして、一部の核酸成分が脳の海馬に到達すること、脳のすべての細胞の数または働きが向上することが示唆されています。DNA核酸の研究は、まだ始まったばかりですが、DNA核酸はこれまで生物の持つ遺伝子(設計図)としての役割のみが注目されてきました。一方で、私たち人間は動物や植物を食べる過程で多くのDNA核酸も摂取しています。そのDNA核酸に正常な脳機能をさらに高める働きがあること、それが経口摂取で見られることは、DNA核酸が栄養素としての役割を持っている可能性を示します。五大栄養素という概念は広く知られていますが、DNA核酸はここには含まれません。6つ目の栄養素として位置づけられるのかどうか、さらに研究を進めています。








<このテーマに関連する主な研究業績>
渡邉憲和、松本 聡、鈴木 真、深谷泰亮、加藤将夫、橋弥尚孝 健常者および軽度認知障害者に対するエルゴチオネイン含有食品の認知機能改善効果 ランダム化プラセボ対照二重盲検並行群間比較試験、薬理と治療 48(4): 685-697, 2020.

Nakamichi N, Nakao S, Nishiyama M, Takeda Y, Ishimoto T, Masuo Y, Matsumoto A, Suzuki M, and Kato Y. Oral administration of the food derived hydrophilic antioxidant ergothioneine enhances object recognition memory in mice. Curr Mol Pharmacol 14(2): 220-233, 2021.

Hydrolyzed salmon milt extract enhances object recognition and location memory through an increase in hippocampal cytidine nucleoside levels in normal mice. Nakamichi N, Nakao S, Masuo Y, Koike A, Matsumura N, Nishiyama M, Al-Shammari AH, Sekiguchi H, Sutoh K, Usumi K, Kato Y. J Med Food 22(4): 408-415, 2019.

Ishimoto T, Masuo Y, Kato Y, and Nakamichi N. Ergothioneine-induced neuronal differentiation is mediated through activation of S6K1 and neurotrophin 4/5-TrkB signaling in murine neural stem cells. Cellular Signalling 53: 269-280, 2019.

Ishimoto T, Nakamichi N, Nishijima H, Masuo Y, Kato Y. Carnitine/organic cation transporter OCTN1 negatively regulates activation in murine cultured microglial cells. Neurochem Res 43(1): 107-119, 2018.

Tang Y, Masuo Y, Sakai Y, Wakayama T, Sugiura T, Harada R, Futatsugi A, Komura T, Nakamichi N, Sekiguchi H, Sutoh K, Usumi K, Iseki S, Kaneko S, Kato Y. Localizatoin of xenobiotic transporter OCTN1/SLC22A4 in hepatic stellate cells and its protective role in liver fibrosis. J Pharm Sci 105(5): 1779-1789, 2016.

Nakamichi N, Nakayama K, Ishimoto T, Masuo Y, Wakayama T, Sekiguchi H, Sutoh K, Usumi K, Iseki S, Kato Y. Food-derived hydrophilic antioxidant ergothioneine is distributed to the brain and exerts antidepressant effect in mice. Brain and Behavior e00477, 2016.

IshimotoT, Nakamichi N, Hosotani H, Masuo Y, Sugiura T and Kato Y. Organic cation transporter-mediated ergothioneine uptake in mouse neural progenitor cells suppresses proliferation and promotes differentiation into neurons. PLoS One 9: e89434, 2014.


@ 抗がん薬等の最適な薬物治療を目指した研究

 詳細は、こちら。       

B 薬物治療を評価するバイオマーカーの探索研究

 詳細は、こちら

C 培養細胞系と数理モデルによるヒト薬物動態・効果の予測

 詳細は、こちら

D 生理活性タンパク質の体内動態とアンメット疾患への応用

 詳細は、こちら



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bunyaku@p.kanazawa-u.ac.jp





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