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薬物治療の標的分子を解明し、病気の治癒やQOLの改善を目指します。

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〒920-1192 金沢市角間町 金沢大学薬学系 

研究概要Research

B薬物治療を評価するバイオマーカーの探索研究

 研究対象の一つに生体内タンパク質トランスポーターがあります。トランスポーターとは、細胞膜に埋め込まれたタンパク質であり、物質の細胞内と細胞外との間の輸送に働きます。したがって、細胞がその物質に対してどのくらい曝露されるかを決定する重要なたんぱく質です。たとえば、物質の細胞内への取り込みに働くトランスポーターがたくさんあれば、その細胞はそれだけその物質に多く、長く曝露される訳です。

 トランスポーターの中で、ヒト遺伝子と病気との関連を調べた解析からヒトの病気と関係することが分かっているトランスポーター(例としてOCTN1)があります(下図の@)。そうすると、メタボロミクスという技術を使ってそのトランスポーターが体内で認識する物質(生体内基質)を見つけることで(下図のA)、その物質自身が病気と関係する、病気を防ぐことと関係する、あるいは直接働いていなくても病気と連動して変化する物質であるかもしれません。つまり、病気に対する医薬品、病気を防ぐ健康食品、あるいは病気や健康のバロメータ(バイオマーカー)を見つけることにつながることが期待できます(下図のB)。


    
         

 私たちは、炎症性腸疾患(クローン病)と関係する遺伝子SLC22A4がコードするトランスポーターOCTN1が、生体内でどのような物質を運び、病気と関連するかに興味を持ち、まずは、octn1遺伝子を持たないマウス(遺伝子欠損マウス)を作製しました。そして、遺伝子欠損マウスと普通のマウス(野生型)の血液や臓器に対して、メタボローム解析(体内に存在する多くの物質量を一斉に測定すること)を行ったところ、食物由来の抗酸化物質でありヒトや動物の体内に広く分布するエルゴチオネインが、octn1遺伝子欠損マウス体内に存在しないことがわかりました。つまり、OCTN1が生体内でエルゴチオネインを輸送すること、そして欠損マウス体内に存在しないので、その輸送は体内への取り込み(摂取)であることが分かりました。エルゴチオネインは真菌やバクテリアの一種が合成できますが、ヒトや他の動物は合成できないとされています。にもかかわらず、私たちの体にはそのエルゴチオネインを体内に取り込むためのトランスポーターが用意されているのです。調べてみるとヒト、ネズミ以外の動物にも、OCTN1やエルゴチオネインは体内に存在します。つまり、OCTN1とエルゴチオネインは、何らかの理由で必要だから進化の過程でも保存されてきたのかもしれません。

 先ほどの図にあるように、病気と遺伝子(あるいはコードされているタンパク質)の関係(@)、遺伝子(タンパク質)と生体内基質の関係(A)が分かりましたので、今度は、クローン病患者さんと健常人の血液をいただいてエルゴチオネイン濃度を比べてみました。そうすると、予想通り、健常人に比べ血液中のエルゴチオネイン濃度が低いことがわかりました(図2)。

                


 図2の結果を利用すると、血液中のエルゴチオネイン濃度を測ることによってクローン病の診断に利用できる可能性があります。ただそのためには、病気とOCTN1、エルゴチオネインの間の関係を、もっと深く理解する必要があります。エルゴチオネインを持たないoctn1遺伝子欠損マウスは、小腸や肝臓の炎症モデルに対して弱い性質があります。したがって、OCTN1やエルゴチオネインが炎症に対して防御の役割を果たすことが考えられます。私たちの最近の検討によると、炎症部位に集積する免疫担当細胞の一部がOCTN1を高いレベルで持っているために、エルゴチオネインがそこに取り込まれ、結果として血液中濃度が低い可能性が考えられています(図3)。

             


 また、OCTN1とエルゴチオネインの役割は、腸炎のみならず、生体内のさまざまな臓器疾患と密接に関係することがわかっています。私たちの研究室でも、他の研究機関との共同研究によって、OCTN1とエルゴチオネインが、肝臓の線維化、慢性腎障害、うつ病などと関係することを示唆しています(下図)。なぜこれらの病気と関係するのか、だいぶ詳しいことが分かってはいるのですが、まだその正体を解明するところには至っていません。さらに研究が必要です。

             

 以上のエルゴチオネインのお話の詳細は、このホームページのエルゴチオネイン物語にも掲載してあります。

 このほかにも、トランスポーターを対象としたメタボロミクス研究をいくつか行っています。詳細は、以下の研究業績をご覧いただければ幸いです。



<このテーマに関連する主な研究業績>
Futatsugi A, Masuo Y, Kato Y. Effects of Probenecid on Hepatic and Renal Disposition of Hexadecanedioate, an Endogenous Substrate of Organic Anion Transporting Polypeptide 1B in Rats. J Pharm Sci 110(5): 2274-2284, 2021.

Hashimoto N, Nakamichi N, Nanmo H, Kimura K, Masuo Y, Sakai Y, Schinkel AH, Sato S, Soga T, Kato Y. Metabolome analysis reveals dermal histamine accumulation in murine dermatitis provoked by genetic deletion of P-glycoprotein and breast cancer resistance protein. Pharm Res 36(11): 158, 2019.

Masuo Y, Ohba Y, Yamada K, Al-Shammari AH, Seba N, Nakamichi N, Ogihara T, Kunishima M, Kato Y. Combination metabolomics approach for identifying endogenous substrates of carnitine/organic cation transporter OCTN1. Pharm Res 35(11): 224, 2018

Shinozaki Y, Furuichi K, Toyama T, Kitajima S, Hara A, Iwata Y, Sakai N, Shimizu M, Kaneko S, Isozumi N, Nagamori S, Kanai Y, Sugiura T, Kato Y, Wada T. Impairment of the carnitine/organic cation transporter 1-ergothioneine axis is mediated by intestinal transporter dysfunction in chronic kidney disease. Kid Int 92(6): 1356-1369, 2017.

Shimizu T, Masuo Y, Takahashi S, Nakamichi N and Kato Y. Organic Cation Transporter Octn1-mediated Uptake of Food-derived Antioxidant Ergothioneine into Infiltrating Macrophages during Intestinal Inflammation in Mice. Drug Metab Pharmacokinet 30(3): 231-239, 2015.

Sugiura T, Kato S, Shimizu T, Wakayama T, Nakamichi N, Kubo Y, Iwata D, Suzuki K, Soga T, Asano M, Iseki S, Tamai I, Tsuji A, Kato Y. Functional expression of carnitine/organic cation transporter OCTN1/SLC22A4 in mouse small intestine and liver. Drug Metab Dispos 38(10): 1665-1672, 2010.

Kato Y, Kubo Y, Iwata D, Kato S, Sudo T, Sugiura T, Kagaya T, Wakayama T, Hirayama A, Sugimoto M, Sugihara K, Kaneko S, Soga T, Asano M, Tomita M, Matsui T, Wada M, Tsuji A. Gene knockout and metabolome analysis of carnitine/organic cation transporter OCTN1. Pharm Res 27(5): 832-840, 2010.


@ 抗がん薬等の最適な薬物治療を目指した研究

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A 食品由来機能性分子による神経新生作用と記憶学習の向上

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 エルゴチオネイン物語はこちら

C 培養細胞系と数理モデルによるヒト薬物動態・効果の予測

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D 生理活性タンパク質の体内動態とアンメット疾患への応用

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