English
Chinese
Indonesian
Japanese

宿主と病原微生物との攻防

  1. 宿主に侵入した微生物の排除応答
  2. 微生物感染に依存しない自然免疫活性化機構の解明
  3. 生体内に生じた異物の排除応答

1. 宿主に侵入した微生物の排除応答

 細菌やウイルスなどの微生物が体の中に侵入すると、宿主の細胞や生体内成分がその排除に迅速に働きます。これが自然免疫応答です。微生物は、宿主には存在しない特有の構成成分を持ち、その構成成分を認識するセンサーが宿主の自然免疫細胞に存在します。細菌やウイルスが体の中に侵入すると、そのセンサーが感知して自然免疫反応が始まります。そのセンサーによって認識される細菌やウイルスの構成成分のことをPAMPs(pathogen-associated molecular patterns)と言い、それによる刺激のことをDanger Signalと呼びます。

 ショウジョウバエには複数のPAMPs受容体が存在します。グラム陽性菌感染時に活性化するToll経路、グラム陰性菌感染時に活性化するIMD経路という二つ独立した自然免疫シグナル伝達経路がショウジョウバエには存在します。私たちは、Toll自然免疫シグナルに必要な新規分子Sherpaを同定しており、SherpaによるToll経路制御の分子機構解明を目指して研究を行っています。

 腸管免疫は自己と非自己の認識という免疫全般に共通の機能に加え、特定の対象に対しては寛容するという特殊性を持っており、微生物と宿主の相互作用という観点から非常に複雑かつ興味深いものです。しかし、腸管免疫の制御機構はまだ良くわかっていません。そこで私たちは、腸管での免疫経路の役割や腸管病原菌毒素の解析を行うことで、腸管免疫機構の一端を明らかにすることを目指しています。

Recent Publications:

  • Hori A, Kurata S, Kuraishi T
    "Unexpected role of the IMD pathway in Drosophila gut defense against Staphylococcus aureus"
    Biochemical and Biophysical Research Communications 495: 395. (2018)
  • Kanoh H, Tong L-L, Kuraishi T, Suda Y, Momiuchi Y, Shishido F, Kurata S.
    “Genome-wide RNAi screening implicates the E3 ubiquitin ligase Sherpa in mediating innate immune signaling by Toll in Drosophila adults.”
    Sci. Signal. 400(8): ra107. (2015)
  • Kuraishi T, Binggeli O, Opota O, Buchon N, Lemaitre B.
    “Genetic evidence for a protective role of the peritrophic matrix against intestinal bacterial infection in Drosophila melanogaster.”
    Proc. Natl. Acad. Sci. USA 108: 15966. (2011)
>戻る

2. 微生物感染に依存しない自然免疫活性化機構の解明

 細菌やウイルスによる刺激をDanger Signalとして認識するメカニズムに関する研究がこれまでに多く行われた結果、最近になり、宿主体内のある種の成分もDanger Signalとなりうることが明らかになってきました。例えば、通常は細胞の中に留まっている分子が、細胞が死んで細胞外に出ると、それを体内のセンサーがDanger Signalとして感知し、自然免疫応答を引き起こすことがわかってきました。そのような体中成分はDAMPs(damage-associated molecular patterns)と総称されます。DAMPsによる自然免疫経路の活性化は、自己免疫疾患や、がん・肥満・動脈硬化などの慢性炎症が基盤となる病態に深く関与していることが知られてきています。しかし、DAMPsの分子実体やそれが感知されるメカニズムについてはまだよくわかっていません。

 私たちはこれまでに、新規のDMAPs同定を目標とし、ショウジョウバエ幼虫抽出液中のタンパク質性の分子がToll受容体の新規リガンド活性を有していることを見出して報告しました。そこで現在は、活性本体を同定すべく研究を進めています。

 私たちは、ショウジョウバエをモデルとした無菌炎症誘導法の確立を試み、ピンセットによる機械的刺激がショウジョウバエの自然免疫を強く活性化することを見出しました(動画)。さらに、既知の免疫シグナル経路(Toll, IMD経路)やストレスシグナル経路(JAK/STAT, JNK, p38経路)は機械的刺激依存の自然免疫活性化にほとんど関与していないことを示しています。現在は、本モデル系における自然免疫誘導の分子機構を明らかにするため、自然免疫遺伝子の発現メカニズム解析と機能欠損個体を用いた遺伝学的スクリーニングを進めています。

Recent Publications:

  • Kenmoku H, Hori A, Kuraishi T, Kurata S “Novel mode of induction of the humoral innate immune response in Drosophila larvae” Dis. Model. Mech. 10: 271-281. (2017)
  • Kanoh H, Kuraishi T, Tong L-L, Watanabe, Nagata S, Kurata S “Ex vivo genome-wide RNAi screening of the Drosophila Toll signaling pathway elicited by a larva-derived tissue extract.” Biochemical and Biophysical Research Communications 467(2): 400-406. (2015)
>戻る

3. 生体内に生じた異物の排除応答

 上に記載したように、細胞内のある種の成分はDanger Signalとなります。したがって、望ましくない無菌的自然免疫応答を避けるため、死んだ細胞は食細胞による貪食によって生体内から速やかに排除されます。しかし、その分子機構はまだ充分に明らかにされていません。私たちの研究室では、食細胞による死細胞貪食のメカニズム解明を目指して研究を進めています。

Recent Publications:

  • Nonaka S, Hori A, Nakanishi Y, Kuraishi T "Phagocytosis assay for apoptotic cells in Drosophila embryos" J. Vis. Exp. 126: e56352. 2017年
  • Okada R, Nagaosa K, Kuraishi T, Nakayama H, Yamamoto N, Nakagawa Y, Dohmae N, Shiratsuchi A, Nakanishi Y. “Apoptosis-dependent externalization and involvement in apoptotic cell clearance of DmCaBP1, an endoplasmic reticulum protein of Drosophila.” J. Biol. Chem. 287: 3138. (2012)
  • Kuraishi T, Nakagawa Y, Nagaosa K, Hashimoto Y, Ishimoto T, Moki T, Fujita Y, Nakayama H, Dohmae N, Shiratsuchi A, Yamamoto N, Ueda K, Yamaguchi M, Awasaki T, Nakanishi Y. “Pretaporter, a Drosophila protein serving as a ligand for Draper in the phagocytosis of apoptotic cells.” EMBO J 28(24): 3868-3878. (2009)
>戻る

金沢大学医薬保健学総合研究科
生体防御応答学研究室

Laboratory of Host Defense and Responses

Graduate School of Medical Sciences, Kanazawa University

Copyright © Laboratory of Host Defense and Responses
トップへ戻るボタン