現在、研究していること

1.トランスポーターによるELTの取り込みに対してどの薬物が影響するかを調べています
 OATP1B1OCT1によるELTの取り込みに対して、どの薬物が影響するかを、それぞれのトランスポーターを強制発現させた培養細胞を用い調べています。影響が懸念される薬物についてはヒト肝細胞を用いてさらに検討を進めます。

2.トランスポーターによる他の併用薬物の取り込みをELTが抑制するかどうかを調べています
 OATP1B1OCT1による他の薬物の取り込みに対して、ELTが影響するかを、それぞれのトランスポーターを強制発現させた培養細胞を用い調べています。影響が懸念される薬物についてはヒト肝細胞を用いてさらに検討を進めます。

3.ELTの消化管吸収機構を調べています
 経口投与されたELTがどのようなメカニズムで小腸から吸収されるかを調べています。この解明が進むことによって、どのような薬物や食物とELTを同時に摂取すると影響が出てくるかが分かります。


研究室で扱う主な実験系

1.In vivo薬物動態試験
 経口投与、静脈内投与後の血漿中、組織中、尿中・胆汁中排泄推移の解析、Ussing-type chamber法、反転腸管法、単離吸収上皮細胞法を用いた消化管吸収機構の解析、などを行っています。

2.遊離肝細胞、遊離肝非実質細胞を用いた取り込み実験
 肝細胞や肝非実質細胞を単離し、薬物取り込み実験を行い解析しています。

3.遺伝子共発現系を用いた取り込み実験
 トランスポーター遺伝子発現細胞を用いた取り込み機構の解析を行っています。


【業績】

1) Takeuchi K, Sugiura T, Umeda S, Matsubara K, Horikawa M, Nakamichi N, Silver DL, Ishiwata N, Kato Y. Pharmacokinetics and hepatic uptake of eltrombopag, a novel platelet-Increasing agent. Drug Metab Dispos 39(6): 1088-1096, 2011.

2.慢性特発性血小板減少性紫斑病(ITP: Idiopathic Thrombocytopenic PurpuraITP)治療薬eltrombopagの肝取り込み機構の解明と安全性の向上を目指した研究

 ITPは自己免疫等の原因により血小板数が減少し出血傾向の強くなる難病です。これまでITPに対する主な治療法は、ステロイド剤の投与ないしは脾臓摘出しかありませんでした。最近、トロンボポエチン受容体作動薬eltrombopag(ELT)が開発されました。ELTITP患者において血小板数を増加させ、出血症状を改善する優れた薬物です。しかし一方で、ELTは副作用として肝機能障害の出ることがあります。また、ELTが効きすぎると、逆に血栓塞栓症が見られる恐れもあります。従って、優れた効果を安全に得るためには、適切な投与方法を考える必要があります。
 ELTの適切な投与方法を考えるためには、投与されたELTが生体内でどのような運命をたどるかを、明らかにする必要があります。しかしこれまでELTの体内動態機構はほとんど解明されていません。そこで第一の目的としてELTの体内への分布と消失に働くメカニズムの解明を目指します。また、慢性のITPは年齢が50歳を過ぎたあたりから増加するため、ELTはしばしば他の薬物と併用されます。そこで第二の目的として、ELTの体内動態機構を考慮し、他の薬物との併用に関する安全性を評価します。すなわち、より安全な薬の飲み合わせを解明します。
 
ELTの体内動態に影響を与える可能性のある薬物、可能性の乏しい薬物を解明することによって、ELTを用いたより安全な薬物治療に貢献できます。
 実験動物を用いた解析から、ELTは主に肝臓で消失することが明らかとなりました(1)。さらに肝臓への取り込み機構を解析したところ、複数のトランスポーターの関与が示されました(1)。ヒト肝細胞に存在するorganic anion transporting polypeptide (OATP) 1B1OATP2B1organic cation transporter (OCT) 1が、ELTを細胞内へ取り込むことが示されました(1)ELTは分子内に負の荷電を持つ有機アニオンです。
その
ELTが、主に有機
アニオンを認識する
OATP
ばかりでなく、有機カチオ
ンを認識する
OCTによって
も取り込まれることは興味
深いです。また、
ELTの分
布臓器は肝臓、腎臓に限ら
れることが示されました
(1)。このことは、ELTの細
胞膜透過が何らかの特異的
なメカニズム、すなわちト
ランスポーターによること
を示唆します。一方で、
ELTは経口投与され血液中
に吸収されます。言い換え
れば小腸の細胞膜を通るこ
とができます。ひょっとす
ると小腸でもトランスポー
ターによって吸収される可
能性があります。

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