気血水論


 中医学になく漢方に独特な概念の一つに『気血水論』があります。中医学では、「気」の異常がすべての異常につながると考えていますが、日本ではその風土や体質により「血」と「水」の異常が多かったため、既にあった「気」という考え方と併せてこの理論ができました。
 それでは、その一つ一つについてどの様なものか見てみましょう。


気について

 「気」とは生命の根源的エネルギーのことで、生体をくまなく巡っています。目には見えませんが、このエネルギーの働きは生体のさまざまな活動として表現されています。
 気には次の3種類があります。
  • 先天の気…両親から授かった気のことで、腎に蓄えられます。
  • 水穀の気…食べ物から得られる気のことで、脾で取り入れられます。
  • 宗気  …呼吸によって得られる気のことで、肺で取り入れられます。
    ※ここでいう腎などの臓器は、「五臓」という考え方に基づくもので、西洋医学の臓器とは大きく意味するところが異なっていて、器官の役割とともに精神活動をも含めた機能単位のことです。
    (詳しくは、陰陽五行説をご覧ください)
     また、存在場所により二つに分けることができます。
  • 栄気(えいき)…体内を流れる気のこと。
  • 衛気(えき) …体表を巡っていて、細菌やウイルスから体を守ります。これは主に昼に働き、夜になると、体表の気が内に入り内臓に流れるようになります。ですから、眠っているときに布団をかけて体表を守り、邪の侵入を防いでいるのです。

     「気」はありとあらゆるものを動かしているので、気に異常があると五臓,血,水の働きに異常が現われます。つまり、あらゆる病の裏には気の異常があるのです。(だから、「病は気から」というのかもしれませんね。)
     気の異常には大きく分けて次の3つの異常があります。

    1)気虚
     腎が疲れて気を蓄えておけなくなったり、肺や脾がうまく働かなくて気を取り込めず、その生産量が減ったり、生体が病的状態を回復するために気を消費したときなど、気の量が不足した場合に起こる状態です。
     この場合、生命の根源的エネルギーである気が不足するのですから、活力が低下し、身体がだるくなったり、疲れやすく気力がなくなったりするなどの症状が見られます。
     気虚の治療には、気を増やしたり、脾や肺を補う生薬を用いた方剤を処方するとともに、過度の刺激による気の消費を防いだり、身体を冷やす食べ物を控えたりします。

    2)気鬱
     気がうまく循環せず停滞した状態をいいます。その原因にはいろいろありますが、気が多く流入しすぎてつまったり、水の停滞により気の巡りがさえぎられたりして起こります。
     この場合には、喉に物がへばりついた感じや胸がつまった感じがしたり、腹にガスがたまった感じがしてゲップやおならが多くなったりするなどの症状が見られます。いずれにしても抑うつ傾向があり、訴えが執拗になったり、コロコロと変わったりします。
     気鬱の治療には、気を巡らす生薬を用いた方剤を処方します。

    3)気逆
     気は本来は主に上から下へ流れていますが、これが逆流した状態をいいます。この場合、生命エネルギーである気が上昇するのですから、顔がほてったり、足は冷えているのにのぼせたり、発作性の動悸や頭痛がするなどの症状が見られます。
     気逆の治療には、原因と考えられる水滞や熱のこもりをとり去るなどして、気を下向きの流れに戻す生薬を用いた方剤を処方するとともに、驚きやすくなっている患者には安静を確保できるようにします。

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    血について

     「血」とは、生体の物質的側面を支える赤い液体のことで、西洋医学で言う血液とは必ずしも一致しません。血は脈管の中を、気の働きによって巡行しています。
     血は肺において宗気と水穀の気から作られ、肝に貯蔵され、心と脾によって循環しています。その働きは身体に必要な栄養をもたらし、身体の形を作り出しています。

     人が健康であるためには、血が質,量ともに十分であり、かつその流れが正常でなければなりません。ですから、血が停滞したり、不足したりすると体に異常をきたします。
     血の異常には次の2つがあります。

    1)血虚
     血の消費が多い、体外に漏れ出す、必要に見合った血の生成ができないなどにより、血が不足して起こります。この場合、集中力の低下や頭髪が抜けやすい、皮膚の乾燥や荒れなどの症状が見られます。
     血虚の治療には、血を補ったり、その生成を促したりするだけでなく、その裏にある気虚を改善することも考えた方剤が処方されます。

    2)お血
     睡眠不足や食べ過ぎなどの不摂生やその他さまざまな要因、打撲により、血の流れが滞るため起こります。この場合、月経異常。便秘、頭痛、のぼせ、精神不穏などの症状が見られます。
     お血の治療には、お血を体外に排出したり、血行を改善するだけでなく、気や血の異常を考えたり、生活習慣を改善することが大切です。 

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    水について

     「水」とは、身体を潤し、栄養を与えて支える無色の液体のことを言います。「水」において、「気」「血」と異なる特徴として、必ずしも体内を循環しないということが挙げられます。ですから、水の異常とは、正常ならば水が停滞しないところに水が偏在したり、全身に水が停滞することによって起こります。これを『水滞』(または水毒)と言います。
     水滞は前に述べた気虚やお血によって起こるほか、寒さや湿気などの外来因子、腎の異常によって起こります。
     水滞は、水の偏在する部分により次の4つに分類されます。
  • 全身型
     全身一様に水が停滞した:水太りの状態を言います。この場合は、全身浮腫、下痢、夜間頻尿などの症状が現われます。
  • 皮膚・関節型
     皮下や関節に水が停滞した状態を言います。これは、慢性リウマチによく見られるほか、こわばりなどが見られます。
  • 胸内型
     呼吸器系に水滞が現われた状態を言います。これは、喘息によく見られるほか、水様性の痰などが見られます。また、呼吸困難に陥りやすくなります。
  • 心下型
     胃のあたりに水滞が起こった状態を言います。この場合は、胃のあたりを手でたたくと「ポチャポチャ」と言うような音が聞こえることが多くあります。(この状態を、胃内停水と言います)食欲不振や下痢、手足の冷えなどが見られます。
     治療の際には、このような水の偏在位置を考え、それにより処方を変えます。また、身体の冷えが激しいことが多いので、保温に努めたり身体を冷やすものをとらないようにすることが必要です。
     治療には主に利尿作用により余剰の水を除くものが用いられますが、発汗させたり吐かせることにより水を除く処方が用いられることもあります。


     漢方では、以上のような「気」「血」「水」の異常の絡み合いを考慮して、治療方針が決められるのです。

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