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報道ダイジェスト:記事

北陸人国記 第5部 製薬新時代⑧
不可能に挑む 金大精神/副作用抑えた抗がん剤/簡易検査で遺伝子判定/蚊を利用 マラリア予防

金沢市の郊外にある緑に囲まれた金沢大の医薬保健学域薬学系キャンパス(金沢市角間町)。「多くの人に役に立つ研究」(向智里・薬学系長)をモットーに、日本人の死因トップ、がんと闘うための取り組みに力が注がれている。

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腎臓への副作用を抑えた抗がん剤2種類を開発し、昨年、特許を申請したのは教授の小谷明(57)だ。「副作用に耐えられないために抗がん剤を投与できなかった高齢者にも、治療の道が開かれる」と熱っぽく語る。

適応範囲が広く、ほかの抗がん剤と併用されることが多いプラチナ製剤「シスプラチン」。しかし、水に溶けにくいため人体の老廃物を排出する機能を持つ腎臓にダメージを与える強い副作用がある。小谷は、腎臓への負担を減らそうと、水に溶けやすいプラチナ製剤を2種類開発した。

小谷は、副作用という言葉には敏感だ。幼少時の病気治療で使われた抗生物質「ストレプトマイシン」の副作用で、数メートル離れると人の声が聞こえづらくなった。難聴と診断され、小学生の時から補聴器が手放せない。「副作用に悩む人を少しでも減らすために手伝いができれば」。大阪大の大学院を修了した時に胸に誓った。

「抗がん剤の副作用を減らすことで、がんと闘おうと頑張っている人を応援できる」。患者の心も助ける薬───。永遠の研究テーマだ。

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がんになりやすい人をあらかじめ見つけ出すことができれば、予防効果は格段に向上する。それを見極める一つが遺伝子だ。教授の松永司(49)は今年7月、遺伝子の修復能力を4日で判定することができる簡易な検査方法を開発し、特許を申請した。

紫外線で遺伝子が傷ついても、修復能力が低いため、水ぶくれや皮膚がんを発症する難病「色素性乾皮症」。進行を防ぐには一刻も早い紫外線対策が必要で、全国で500人前後の患者がいるという。松永の検査方法は、遺伝子の修復能力が低いかどうかを見極め、この病気かどうかを診断する。「これをがんにも応用できるのでは」。研究の過程で、検査法の可能性が広がってきた。

国立がん研究センターによると、がんは、正常細胞の遺伝子が、たばこや紫外線、肉の焼け焦げの中などにある発がん物質によって傷つけられ、がん細胞に変異することで発症する。しかし、正常細胞の中には、がん化を防ぐための修復能力も備わっている。松永は「この検査方法の精度を高めれば、修復能力が追い付かずにがんを発症しやすい人がわかる」と力を込める。

富山市出身で、金沢大在学中の1981年、がんが脳血管疾患を抜いて死因トップとなった。「がんはどうしてできるのか。がんを治療できたら」との思いが募った。

がん予防への応用までには、まだいくつかのハードルが待ち構える。「がんの治療はまだ難しくても、予防につながる研究が進めば、もっとがんで亡くなる人は減らせるはず」

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石川での薬学研究の歴史は、江戸末期の1867年、加賀藩の舎密局設置にさかのぼる。外国からの攻撃に備えて日本海側の守りを強化するため、武器に使う火薬などを開発していたとされる。当時は国内で最先端の研究拠点で、その流れは、金大の研究者のチャレンジ精神に受け継がれている。

マラリアの感染源となる寄生虫を人体に持ち込む厄介者の蚊を、有益なワクチンなどの運び役に変えられないか───。そんなユニークな研究を、教授の吉田栄人(49)が進めている。

マラリアは、アフリカなどを中心に年間3億人が感染、200万人以上が死亡するといわれる世界三大感染症の一つ。感染源の寄生虫は、熱帯などに生息する蚊の一種、「ハマダラカ」を介して人間の血中に入り込み、赤血球内で増殖し、マラリアが発病する。

吉田の研究は、体内で寄生虫を死滅させた雄の蚊を自然界に放ち、世代交代を経て寄生虫を持つ蚊を駆逐するという壮大な発想から始まっている。そのうえで、遺伝子操作によって結核やエイズウイルス(HIV)などのワクチンを組み込んだ蚊に血を吸われることで、人体に病気の免疫を作り出すことを目指す。

遺伝子操作を駆使した研究は一歩一歩進んでいる。2006年、まず寄生虫を蚊の体内で殺すことに成功。07年には、次の段階として、蚊の唾液腺に、赤く光るサンゴのたんぱく質を出現させ、ワクチンなどを組み込むことに可能性をつないだ。

徳島県出身。北海道大学を卒業後、製薬会社勤務を経て、1997年に自治医大でマラリアの研究をしていた教授の助手についた。99年、ミャンマーの山岳地帯でマラリア調査をした際、発症した子供を抱えながら、薬を買えない母親の姿を目の当たりにしたのが、研究への情熱をかき立てた。

いま、世界中でマラリアのワクチン開発が進められているが、いまだに完成していない。蚊の遺伝子操作でマラリア対策をする試みは、まったく異なる方法だが、吉田は「夢のような話と言う人もいるが、決して不可能ではない」とわが道を信じて歩み続ける。

※この記事は、読売新聞社の許諾を得て転載しています。(著作物について

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