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報道ダイジェスト:記事

金沢で石川県が4年ぶり薬剤散布 捕殺でも効果メキメキ 住民が防除協力会 金沢大浦【抜粋】

九月二日午後、高枝切りばさみやはしごを積んだ三台の軽トラックが金沢市瑞樹団地外周の調整池沿いに止まった。大浦校下の住民が結成した防除協力会によるアメリカシロヒトリの捕殺作業である。
「きょうもやるぞ」。今井敏彦会長(七〇)の合図で、男性六人がハンノキに付いた幼虫の駆除を始めた。ハンノキを見上げても、低い部分の葉はあまり食われていない。太い枝に足をかけて幹を登ったメンバーの一人が大声を上げた。「ありゃー」。切り落とされた枝に目をやると、数十匹の幼虫が葉の周りに群がっていた。切った枝はすぐにごみ袋に入れ、枝から落ちて地面をはう幼虫は踏みつけて退治した。
 防除協力会は、「原則捕殺」を掲げる金沢市の呼びかけで三年前に発足した。メンバーは七十代前後の八人で、このうち六人が元造園業者だ。木越団地や瑞樹団地の公園や街路樹で、ソメイヨシノやアメリカフウなどの葉に付いた幼虫の捕殺に取り組んでいる。
 今井会長は「発生の連絡にも迅速に対応し、木の状態も頻繁に観察している。急な発生でも早期の捕殺だけで十分防げる」と自信ありげに話す。
 こうした「防除協力会」は金沢市内では大浦校下のみである。他の地域や校下では市が指定した防除業者が捕殺を実施しており、大浦校下の取り組みは地域に「緑の専門家」がいて初めて実現したと言える。

富山は被害減少 県など薬剤散布で対応

金沢市のように「原則捕殺を打ち出しているところは少数派で、他の自治体では薬剤散布が主流となっている。富山市では、街路樹を管理する道路維持課いによると、旧富山市区域の市道における今年のアメリカシロヒトリの駆除は七十六件にとどまり、薬剤で駆除している。
 県道を管理する富山土木センターでは、六月と八月に各一回、業者に委託して管内の街路樹を調査、薬剤散布による駆除を行ったが「昨年より被害は少ない」とする。
 旧富山市区域の公園と松川、いたち川の桜並木などを管理する同市公園緑地課によると、チャドクガなどを含めた害虫の全駆除件数は二〇〇三(平成十五)年が三百六十四件、〇四年は二百二十六件を数え、うちアメリカシロヒトリの駆除が四百二十七件と大半を占めた。
 今年のアメリカシロヒトリの駆除件数は九月一日現在で二百十五件にとどまり、松川沿いの桜やプラタナスなどにぽつぽつと被害が見られる程度だ。
 旧盆過ぎから一日五、六件の駆除依頼が寄せられており、民間業者に委託して薬剤を散布している。
 同市公園緑地課は「昨年のような大発生はない」とみているが、気温が高い日が続けば幼虫の活動が活発になるため、なお警戒している。

アメリカシロヒトリ大増殖 ピリピリ暁の一掃作戦

金沢市内でアメリカシロヒトリの幼虫が大量発生し、市街地の並木が茶色に枯れる被害が広がっている。同市では環境や人体への影響に配慮し、二〇〇一(平成十三)年に薬剤散布から枝ごと切る「捕殺」に切り換え、薬剤は必要最小限にとどめている。だが、捕殺では追い付かず、住民から苦情は増えるばかり。八月三十日、中心部ではクレーン車による薬剤散布が実施され、「薬剤」「捕殺」をめぐる議論が再燃した。
 夜明けの街に、毛虫がボロボロと落下し、あっという間に道路を覆い尽くした。八月三十日早朝、金沢市の県中央公園、旧県庁舎間の「アメリカ楓通り」。金沢市内で県が四年ぶりに踏み切った薬剤散布は、大々的かつ慎重なものだった。

不安打ち消し「今回限り」

散布は一日で最も人通りが少ない時間帯を選び、午前四時五十分から行われた。高所作業者のクレーンの先端にはマスクをつけた作業員。四十五本のアメリカフウに激しい勢いで殺虫剤が噴射された。
 木々には「ご迷惑をおかけします」の注意書き。散歩中の市民が近づくと、中央公園に誘導するなどピリピリした雰囲気が感じられた。約二時間でまかれた薬剤は千五百リットルに上った。
 県金沢城・兼六園管理事務所は農林水産省が通知した農薬使用などに基づいた「必要最小限」の散布であることを強調。作業に立ち会った森永寿久所長は「薬には成分が葉に付着しやすくなる展着剤が含まれ、雨が降っても流れ落ちる可能性は極めて少ない」と説明した。
 同じころ、広坂通りでも県央土木総合事務所の委託業者がソメイヨシノ約八十本に薬剤をまいて、幼虫を駆除した。
 金沢市では昭和四十年代から薬剤散布を行ってきたが、二〇〇一年、住民グループから「薬剤は人体や環境に悪影響を与える」との指摘を受け、駆除方式を一斉薬剤散布から「捕殺」に切り替えた。だが、駆除が追い付かず、〇四年には捕殺が困難な高所などに限って薬剤を認める方針に改めた。
 今年は梅雨明け後の好天続きで繁殖が進み、金沢市緑と花の課には六月上旬から三百件を超える駆除要請が寄せられた。
 金沢市中心部の商店街関係者からは「やはり薬剤散布じゃないとアメシロは防げない」との声も上がった。
 ただし、森永所長は最後まで慎重な姿勢を崩さなかった。「今年の散布は今回限り。朝晩も涼しくなり、発生は収束に向かうと思います」。今後の発生に対しては捕殺で駆除するという。

薬剤散布をどう考える 安全な農薬はない

金大大学院自然科学研究科 早川和一教授(環境衛生化学)

今回、県が散布したのは「トレボン乳剤」と呼ばれる農薬で、アメリカシロヒトリの神経機能を低下させて殺す薬だ。毒性はあまり強くはないが、動物実験では、発がん性があり、細胞の代謝を促進する甲状腺ホルモンの分泌に悪影響をもたらす疑いがあることが確認されている。
 高齢者や乳幼児、化学物質化敏症の人など抵抗力の弱い人が薬剤にさられた場合、目に傷みを感じたり、吐き気を覚えるケースもある。
 そもそも虫だけを殺し、人体に全く害のない安全な農薬はないとの認識を持つべきだ。住民の安全のためにも、孵化し始めた五月ごろ、葉についたアメシロを捕殺することが大切だ。県や市は薬剤に頼らず、こまめに公園や街頭の樹木を見回り、駆除する手間を惜しんではならない。税金で住民の健康を害する恐れのある薬剤散布を安易に行うことは行政として取るべき手段ではなく、捕殺を基本とする金沢市の姿勢は正しいと思う。
 人通りの少ない未明に県中央公園周辺などに限定して薬剤散布した県の判断は理解できるが、これをよしとして、散布範囲を住宅地などにむやみに拡大することは絶対に避けなければならない。街なかの緑は人の手をかけて初めて守ることができる。薬による安易な駆除は必要最小限にとどめるべきだ。

弱い木は薬も必要

石川県造園緑化建設協会 植村章英顧問

樹木にとって何百枚とついている葉を一枚一枚点検し、アメリカシロヒトリを駆除するには大変な人手と時間がかかる。五メートル以上の高い場所に巣をつくった場合は殺そうとしても手が届かない。すべて捕殺で対応するには現実的には不可能であり、駆除はやはり薬剤に頼らざるを得ない。
 人体の影響が懸念されるというが、近年の薬は毒性が弱く分解も早いため、ほとんど人間には害はないと考えていい。水田や畑でも農薬は使われており、ヒステリックに反応する必要はないと思う。
 アメリカシロヒトリは山の中にある野生の樹木にはほとんどみられないが、街なかの樹木は狭い「植栽ます」の中で育つため、野生の木に比べて抵抗力が弱く、アメシロが発生しやすい。
 か弱い都市の樹木を人間が薬で守ってやらなければ、丸坊主になるまで葉が食い荒らされ、金沢の景観は台なしになってしまう。捕殺を基本と考え、薬剤散布は極力避けようとする金沢市の姿勢には疑問を感じる。
 むろん薬剤を無差別にまき散らせばいいというのではない。県や市、住民が人体に影響を及ぼさない農薬の種類や散布してもよい量を正しく理解しなければならない。

お問い合わせ先: 早川和一;hayakawa@p.kanazawa-u.ac.jp

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